※注意※ この作品には過激な暴力描写や殺人・自殺行為シーンがあります。

D-04 腐乱天使

 空(そら)ちゃんが転校してきたのは、小学校四年生の夏休み前だった。
 わたしは空ちゃんが大嫌いだった。空ちゃんは不潔でだらしなくて嘘つきだったから。

 空ちゃんが転校してきた最初の日、先生は、空ちゃんをわたしの隣の席に座らせて、わたしに「仲良くしてあげてね」と言った。わたしは学級委員だったから。
 空ちゃんは、すごく嬉しそうにわたしを見て、歯の抜けた口で、人懐こく、にかっと笑った。馴れ馴れしくてムカついた。先生にああ言われたからって、もうわたしと仲良しになったつもりでいるの? わたしは、あんなみっともない子と、仲良くなんかしたくない。あんなレベルの低い子と仲間だなんて思われたら、わたしまでみんなにバカにされる。
 でも、わたしは学級委員だから、ちゃんと空ちゃんの面倒を見た。分からないことは教えてあげたし、忘れたものは貸してあげた。空ちゃんは毎日忘れ物ばかりしていて、勉強もぜんぜん出来なくて、とても世話が焼けた。
 空ちゃんは、ほとんどいつも同じ薄汚ない空色のワンピースを着ていて、ぼさぼさの長い髪の毛はフケだらけで、べたべたして臭かった。みそっ歯のせいか舌足らずなしゃべり方も幼稚っぽくてバカみたいで嫌だったし、わたしのことを仲良しの友だちが呼ぶのを真似して勝手に『みゆちゃん』と呼ぶのも、ずうずうしくて嫌だった。不潔で不細工でぜんぜん可愛くないのに人懐こい笑顔だけはまるで天使のようなのが、余計に気に障った。
 そして、空ちゃんは嘘つきだった。空ちゃんは、町外れの立派なお屋敷が自分の家だとか、お母さんは有名な女優だとか、お父さんは外国に単身赴任しているんだとか、誰にでもすぐバレるような嘘ばかり次々とついた。小さな町のことだから、空ちゃんが商店街近くのボロアパートに住んでいてお父さんはいないということは、あっという間にみんなに知れ渡っていたのに。
 ある日、空ちゃんが、居ないはずのお父さんのことをあんまり得意そうに自慢するから、誰かが「空ちゃんのお父さんは死んだんでしょ?」と言うと、空ちゃんは、「ちがうもん、死んでないもん!」と怒り出した。
「お父さんは、死んだんじゃないの。お空の国に帰っただけなの。お母さんがそう言ったもん。お父さんはね、本当はお空の国の人で、お空の国からお母さんのところに来たんだって。お空の国の人だから、あたしに『空』って名前をつけたんだって。だけど、あたしが生まれてすぐ、お空の国に帰っちゃったんだって」
「お空の国って、天国のことでしょ? だったら、やっぱり、お父さんは死んだってことじゃないの?」
「ちがうもん、お父さんはお空の国で生きてるもん。お父さんは、お空の国で、お城みたいな立派なおうちに住んでて、あたしは時々、そこに遊びに行くの。お父さんのお空のおうちにはあたしのお部屋もあって、おもちゃやお菓子がいっぱいあるの。お空のおうちにはね、空を飛んでゆくの。あたし、本当は空が飛べるの。あたしのお母さんは本当のお母さんじゃなくて、本当のお母さんはお空の国の女王様で、あたしは、お空の国のお姫様なの。お空の国の人にはみんな背中に羽があって、あたしもあるけど普段は隠してるの」
 あまりにも幼稚な嘘にみんなが呆れて、口々に「空ちゃんの嘘つき」「嘘はいけないんだよ」と注意したら、空ちゃんは、「嘘じゃないもん!」と泣き出してしまった。

 放課後、なぜかわたしが先生に呼び出された。空ちゃんを泣かせたのはわたしじゃないのに。わたしは一緒にいただけなのに。
 それに、わたしたちは空ちゃんに意地悪をしたわけじゃない。空ちゃんが嘘をつくから、嘘はいけないと注意しただけ。
 そう言うと、先生は困ったような顔をした。
「空ちゃんはね、みんなと仲良くなりたくて、つい、でまかせを言ってしまうんじゃないかしら。きっと、大きなお家に住んでるとかお母さんが有名人だとか言えばみんなが感心して仲良くしてくれるかもしれないと思って、それで作り話をしてしまうのよ」
 もしそうだとしたら、空ちゃんはバカだ。みんな、嘘をつく子となんか、なおさら仲良くしたくないに決まってるのに。
「ねえ、美由紀ちゃん、空ちゃんを許してあげてね。空ちゃんはね、可哀想なのよ。転校してばかりでなかなか友だちが出来なくて、きっと寂しいのよ」
 そんなの、ヘンだ。可哀想な子は、嘘をついてもいいの? 嘘をつくのは、いけないことのはず。わたしは学級委員だから、いけないことをしている子を見たら、ちゃんと注意をする。それは正しいことのはず。
 黙って唇を引き結ぶわたしを見て、先生は、ますます困ったような顔をした。
「先生思うんだけど、もしかすると空ちゃんは、嘘をついているつもりじゃないのかもしれないわ。美由紀ちゃんは、小さい頃に、自分の作り話を自分で信じてしまったことはない? 何かとっても悲しいこと、嫌なことがあった時、これは本当のことじゃないんだと思いたくなったりしない? 嫌なことを忘れてしまって無かったことにしておきたいと思ったことはない?」
「ありません」と答えると、先生は悲しそうに目を伏せた。
「そう……。先生は、そういう気持ち、ちょっと分かるような気がするのよ」
 だとしたら、先生は、大人のくせに、なんて心が弱いんだろう。そんなふうに目を逸らしていたって悲しいことや嫌なことが消えてなくなるわけじゃないくらい、子どものわたしにだって分かるのに。
「ね、美由紀ちゃん、空ちゃんはね、あなたのことが大好きなのよ。みゆちゃんは可愛くて頭が良くてしっかりしてて優しいって、みゆちゃんが親切にしてくれて嬉しいって、毎日毎日、言ってるのよ。だから、仲良くしてあげてね」
 空ちゃんはいつも先生に、そんなふうにいろいろ話しているの? 先生は空ちゃんだけの先生じゃないのに、そんなことも分かりもしないで、忙しい先生に毎日べたべたとまとわりついて。先生は、どうして空ちゃんのことばかりそんなに気にかけるの? 先生は空ちゃんをひいきしてる。
 わたしが可愛くて勉強が出来るのは、自分でがんばってそういうふうにしているからだ。成績が良いのは毎日予習復習をしているからだし、忘れ物をしないのは毎晩ちゃんとランドセルの中を点検しているからだ。服も自分で可愛い組み合わせを考えて着て、髪も何度も練習して自分で上手く結べるようになった。そうやって自分でちゃんとがんばっているから、クラスの中でも可愛くて頭が良くて人気のある子たちのグループに入る権利があるんだ。なのに、そういう努力を何もしていない空ちゃんをわたしたちのグループに入れてあげなきゃいけないなんて、不公平だ。そんなことしたら、グループのレベルが下がる。わたしたちが人気者グループの一員という地位を保つためにどんなに努力しているか、そういうことを先生は何も知らないから平気で『誰それを仲間に入れてやれ』なんて言うけど、わたしたちにだっていろいろ事情があるんだから、何も分かっていない大人に口を出して欲しくない。
 でも、先生が、「空ちゃんは転校したばかりで、まだいろいろ分からないんだから、大変でしょうけど、あなたが面倒を見てあげてね。よろしくね」と言うから、しかたなく、「はい」と答えた。わたしは学級委員だから、クラスに世話の焼ける子がいたら面倒を見なくちゃいけない。私は良い子だから、いつでも良いことをする。

 次の日、空ちゃんは、何もなかったみたいに、にかにか笑って寄ってきて、わたしは、それからも毎日、空ちゃんの面倒を見た。空ちゃんは相変わらず世話が焼けて、わたしはうんざりした。
 空ちゃんは、臭くて汚いと、男子にいじめられだした。空ちゃんは、臭いとか汚いと言われて泣くくらいなら、ちゃんと清潔にすればいいのに。もしお母さんがお仕事で帰りが遅いんだとしても、そんなの、空ちゃんが不潔にしていていい理由にはならないと思う。もう四年生なんだから、お母さんがいなくたってお風呂くらい自分で沸かして入れるはずだし、服だって、自分で洗濯機で洗えるはずだ。わたしだったら、そうする。
 でも、いくら空ちゃんが不潔なのが本当でも、いじめは悪いことだから、男子たちが空ちゃんを囃し立てたり小突いたりするたびに、わたしは注意して止めさせた。だから、夏休みに入って、やっと空ちゃんのお守りから解放された時には、本当にほっとした。

 それなのに、夏休みのある日、わたしが友だちと歩いていると、空ちゃんとばったり会ってしまった。空ちゃんは、わたしを見ると、それは嬉しそうに、にかっと笑って、誰も一緒に来ていいなんて言わなかったのに、勝手に後をついてきた。
 その日、わたしたちは、駅前のファンシーショップに行くところだった。可愛い文具やアクセサリーがいっぱいのその店は、わたしたちにとって、ちょっと特別な場所だった。中学生のお姉さんたちも買い物に来るその店に入り浸ることは、わたしたちおしゃれで大人っぽい女の子のステイタスの証だったのだ。その、わたしたちの聖域に、空ちゃんなんかに入り込まれたくなかった。
 わたしたちは、目と目で相談しあって、駅とは反対のほうに歩き出した。空ちゃんに、あの店について来られないように。
 空ちゃんは、みんな無視して相手にしないのに、どこまでも後をついてきた。「ついて来ないで」と言っても、聞こえてないみたいにへらへらと笑って、二メートルくらい後ろをついてくる。まるで汚い野良犬みたい。
 わたしたちは意地になってどんどん歩き続け、とうとう市街地を抜けて、山の上の小さなダム湖にまで来てしまった。さすがの空ちゃんも不思議に思ったらしく、無邪気に、「ねえ、どこに行くの?」と訊ねてきた。真夏の日差しの中を歩き続け、疲れて不機嫌になったわたしたちは、誰も返事をしなかった。空ちゃんは一人で勝手にしゃべりだした。
「ねえ、みんな、これからお空のおうちに遊びに来ない? みんなにも魔法で羽をつけてあげるから、飛んでいこうよ。ゲームがいっぱいあるよ、何でも貸してあげるよ」

 あの時、なぜ、あの場所であんなことが起こってしまったのか分らない。わたしたちは、誓って、空ちゃんに危害を加えるつもりはなかった。空ちゃんを危険な目にあわせようとしてわざとあの場所に誘い出したりしたわけじゃなかった。ただ、空ちゃんがいつものように空を飛べると嘘をつき、いつものようにみんながその虚言を咎めたその時、ちょうど、たまたま、ダム湖を遥か下に見下ろす小さな赤い橋に差し掛かっていたというだけ。
 橋の上でみんなに嘘を詰られた空ちゃんは、「嘘じゃないもん、飛べるもん!」と叫んで、止めるまもなく赤い欄干に攀じ登り、いきなり宙に舞ったのだ。
 わたしたちの目の前で、空ちゃんの小さな身体は、はるか下、青空を映す湖面に向って落ちていった。まるで湖面に映るもう一つの空に向って飛翔するように。
 一瞬の後に、小さな水音が上がった。わたしたちは悲鳴を上げて欄干から下を覗き込んだけれど、そこには、もう、空ちゃんの姿は無かった。水面で溺れかかってバシャバシャもがいている姿を予想したのに、そこにあったのは、輪を描いて広がる水の波紋だけ。夏の日盛りの橋の上、照りつける日差しがふと陰り、蝉時雨が糾弾のように降り注いだ。
 わたしたちに何が出来ただろう。わたしたちは、みな、ほんの十歳かそこらの子どもだった。周囲に他の人影も民家もなく、あの頃はまだ、今のように子どもが携帯を持ち歩いていたりはしなかった。わたしたちに何が出来ただろう。――わたしたちは、ただ、恐くなってその場から逃げ出したのだ。

 息を切らせて逃げ帰った町外れで、わたしたちは足を止め、わたしはみんなに、今日のことは誰にも言うなと告げた。
 わたしたちは何も悪いことをしなかった。わたしたちは誰も空ちゃんに飛び降りろとか死ねとか言っていない。これまでだって、男子たちがしていたみたいに空ちゃんをいじめたりしたことは一度もない。わたしたちは、ただ、嘘を注意しただけ。嘘をつくのはいけないことだと教えてあげて、止めさせようとしただけ。それは正しいことのはず。空ちゃんのためにもなることのはず。それなのに、何も悪いことをしていないのに、今日のことを大人に言ったら、きっと、わたしたちが叱られる。
「誰かに話したら、仲間外れだからね」
 そう宣告すると、みんな青い顔で頷いた。わたしたちが空ちゃんと一緒にいたのは、たぶん、誰も見ていない。見ていたとしても、その後でわたしたちが一緒にダム湖に行った事は誰も知らないから、道で会ったけどそのまま別れたと言えば大丈夫――。

 翌日、行方不明の空ちゃんの捜索で、町は大騒ぎになった。捜索が続く間、わたしは夜毎、怖い夢を見た。蒼褪めたずぶ濡れの空ちゃんが髪から水を滴らせて湖から這い上がってきて、「みゆちゃんがやりました」と告げる夢を。
 空ちゃん、出てこないで。このまま、みつからないで。空ちゃんがみつかったら、きっと、あの日の事がバレる。わたしは良い子でいられなくなる――。
 けれど結局、空ちゃんは発見されないまま、わたしたちが疑われることも一切無いまま、しばらくして、空ちゃんのお母さんは、ひっそりとどこかに引っ越していった。その頃、大人たちの噂話で、空ちゃんのお母さんの帰りが遅かったのは仕事のためではなく男の人と会っていたかららしいと知った。あの日も、日付が変ってから帰宅して、翌朝遅くなってはじめて空ちゃんがいないのに気がついたらしいと。空ちゃんは、毎晩のように遅くまで放っておかれて、一人でカップ麺や菓子パンを食べていたんだと。
 だからといって空ちゃんが不潔にしていたり嘘をついていい理由になるとは思わなかったけれど、先生が空ちゃんを可哀想だといった意味と、空ちゃんが作り話の中でお母さんのことを『本当のお母さんじゃない』と言った気持ちは、少し分かった気がした。
 それからわたしたちは、空ちゃんについては一切口にしないまま普通の日々を送り、やがてわたしは、空ちゃんのことを、自分の空想の産物だと思うようになっていった。空ちゃんは本当に空の国から来た天使だったのかもしれない。あの日、橋から飛び降りた空ちゃんの背中に、わたしは、一瞬、薄汚れた白い翼を見たもの。空ちゃんは、湖に落ちたのではなく、空に帰っていったんだ。自分のクラスに天使が転校してきて、また空に帰っていったなんて、いかにも子どもが思いつきそうな作り話だ。『空から来た空ちゃん』だなんて、名前まであまりにも出来すぎていて嘘くさい。そう、空ちゃんなんて子は、最初からいなかったんだ――。
 春の遠足が終わってから転校してきて秋の運動会を待たずに去ってしまった空ちゃんは、学校行事の写真にも一切写っていなかったから、そんな風に自分に思い込ませるのはたやすかった。

 やがてわたしたちは大人になり、散り散りに町を出て行った。そうして、わたしは、空ちゃんのことを忘れて暮らしてきた。――郷里の母からの電話で、あのダム湖で子どもの古い白骨死体が発見されたという噂話を聞くまでは。
 子どもの骨は、湖底に沈んで立ち枯れた木の枝にひっかかっていたのだという。「可哀想に、木の枝に引っかかってしまって浮かび上がれなかったのね。苦しかったでしょうね」という母の言葉が遠く聞こえ、心の奥に封印されてきた空ちゃんに纏わる記憶のすべてが一気に甦った。
 その夜、夢を見た。白くふやけて膨張した天使の腐乱死体が、暗緑色に濁った水の中で、木に引っかかって揺らいでいる。ぼろぼろになって水流に靡く空色のワンピースの背中には、黄ばんだ羽毛を僅かに残す折れた翼が、半ば千切れてぶら下がっている。魚につつかれて破れた皮膚の、ふやけたところに小さな巻貝が群がって、眼球が喰い荒らされた後の空ろな眼窩の縁からイトミミズのような赤い蟲が蠢きはみだして涙のように一筋零れ落ち、天使は空ろな口腔を開け、わたしに向かって、にかっと笑いかけるのだ。昏い口腔の中には、白茶けた小蟹が――。襲い掛かるような腐臭に息が詰る。
 目が覚めても、腐臭は消えなかった。一人暮らしの高層マンションの部屋に、腐臭が満ちている。ああ、バスルームだ。蓋をしたバスタブの中に腐臭を放つ湖水が淀み、天使の腐乱死体が手足を不自然に捻じ曲げて浮かんでいる。蓋を開けたら、きっと、水面をびっしりと覆う不潔な羽毛と髪の毛の間から、水に晒されて色が抜けた生白い顔が、わたしを見上げて笑うのだ――。
 バスルームから、時おり、ちゃぷん、と、微かな水音がする。バスタブの縁から、抜け落ちた黒髪と羽毛が混じった腐った水が流れ落ちて床に溜まってゆくのが脳裏に見える。バスルームの前を通るのが怖くて、私は部屋から出られない。もうずっと、奥の寝室のドアを締め切って、窓際のベッドで頭から布団を被って震えている。今、バスルームで、かさり、ぽたり、と音がした。バスタブの蓋の隙間から小さな蟹がかさこそと這い出して、床に転がり落ちたのだ。蟹の後を追うように、血の気の無い指が蓋の隙間から伸びて、のろのろとあたりを探る。ゆっくりと蓋が持ち上がる。腐った天使が、水を滴らせてバスタブから生まれ出る。ずるり、ぴとり、べちゃり……濡れた足音が廊下を近づいてくる。この寝室のドアの向こうに、溺れて腐った空ちゃんが、空ちゃんが、空ちゃんが……!
 ドアの下の隙間から、腐臭を放つ水がちょろちょろと流れ込む。ドアが軋む。腐臭がわたしを包む。ああ、ドアが、開く――

 逃げ道は一方向だけ。気がつくとベランダの柵を乗り越えて、わたしの身体は宙に舞っていた。あの日の空ちゃんのように。
 青空に浮かんだまま、わたしの時が止まった。目の前に、腐った天使が浮かんでいる。ぶよぶよと溶け崩れた顔に空ろな笑みを浮かべ、あどけなく小首を傾げて手を差し出す。

――やっとあそびにきてくれたね ずっとまってたんだよ だいすきなみゆちゃんにいちばんにきてほしかったの これからほかのみんなもむかえにいこうね――

 差し伸べられた腕から腐肉がずるりと剥け落ちてわたしの頬に滴り、死んだ子どものつめたい指が手首に絡みついた。

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